■猪木vsアリ
新日本プロレス 大会パンフレットより
「モハメド・アリと闘う!」アントニオ猪木がぶち上げたアドバルーンは、アリ側が実現を否定したことや、ボクシング界の常識から考えてもあり得ない話だとされた。そして猪木vs.アリの話題は世間やマスコミから次第にフェードアウトしてしまった。しかしプロレスマスコミの中にただ一人、「必ず実現する」と信じて取材を続けた男がいた。それは我らが「I編集長」だった。
「週刊ファイト – 武道・プロレス・格闘技の”見る本”電子書籍」というサイトに、当サイトの「I編集長の喫茶店トーク」のコーナーをリメイクした記事を掲載してもらっています。もうすぐ6.26「世界格闘技の日」です。と言うわけで、猪木vsアリ戦の喫茶店トークです。
■I編集長の喫茶店トーク
サムライTV「闘いのワンダーランド」画面キャプチャ
■闘いのワンダーランド #027 (1997.01.10放送)「I編集長の喫茶店トーク」(後半部分から抜粋)
(I編集長) それからもう一つお話しておきたいのは、「フレッド・ブラッシー」ですね、あの噛みつき魔、ヤスリでこんなことをやっていた男です。そのフレッド・ブラッシーが、アリ陣営に付いたんですよね。アリの参謀としてフレッド・ブラッシーを差し向けたのは誰かと言ったら、「ビンス・マクマホン」なんですよ。息子のジュニアのほうじゃないですよ。オヤジの方のビンス・マクマホンですよ。
■フレッド・ブラッシー
週刊ファイトより
(I編集長) 実は、最初にビンスがアリ陣営に送ったプロレス関係の参謀は、シークだったんですよね。ところが、シークのオッサンはああいう人ですから、役に立たないんですよ。それでアリも呆れ返ってしまってしまいましたね。「シークのオッサンは役に立たない、いらない」と言ったんですよ。
■ザ・シーク
週刊ファイトより
(I編集長) それじゃあ、代わりにフレッド・ブラッシーを送りましょうとなったんです。これがハッキリ言えば、猪木にとっての「ガン」になったんですよ。フレッド・ブラッシーというのは、百戦錬磨のプロレスラーですから、猪木のプラス面もマイナス面も全部知り尽くしておる男です。それが向こうのアリ側の参謀に付いたんですよ。ブラッシーはアリに「猪木という男は、お前さんが考えているような生易しい男とは違う。あなたは親指で捻り潰すとか言ってるけれども、とんでもない。まずその認識を改めるべきだ」と言ったんです。さらに「レスラーがボクサーと闘う時には、必ずタックルで飛び込んでくる、それがレスラーの常套手段だ」というようなレスラーの闘い方も教えたんです。
■ここから攻撃できなかった
ベースボールマガジン社NEW PROWRESTLING ALBUMより
(I編集長) そうこうしているうちに、「アリが4オンスのグローブを使う」という情報が入ってきたんです。皆さんご存知だと思いますけど、ヘビー級のボクサーっていうのは、10オンスとか12オンスとか、そういったこんな大きなグローブを使うんですよ。それで殴ったとしてもヘビー級のボクサーですから相当なダメージを与えますよ。ところが4オンスのグローブといいますと非常に薄いんですよ。アリのような手の大きい男が4オンスのグローブを付けることになりますと、ホントに厚めの手袋と同じなんですね。これはもう「凶器」なんですよ。だから新間さんあたりはね、ものすごく神経質になってましたよ。「10オンスどころか12オンスのグローブを着けろと言ったのに、井上さん、4オンスなのよ。凶器ですよ、あれは」と新間さんが困ってましたよ。
■練習用の薄いグローブ
新日本プロレス 大会パンフレットより
(I編集長) 4オンスグローブが凶器だ云々と言っているところに、また、情報が入ってきたんですよ。これは確実な情報じゃないんですけどね。このバンテージ、アリはそのバンテージをシリコンで「ガチガチ」に固めるようだ、それを誰かが見たと言うんですよね。さすがの猪木もね、「カーッ」と怒りましたね。そしたら新間さんが「相手がそんな卑怯な手に出てくるんだったら、コチラもやろう」と考えたんです。足の甲で蹴っていいとなってるんだから、鉄板を入れた特別製のシューズを使おうとしたんですよね。それを新間さんが実際に作ったんですよ。それで「社長、これを履いてください。これで練習してください」と言ったんです。猪木は最初はそれを履いて練習したらしいですね。しかしある日、「新間、やっぱりこのシューズは使わない。相手がどんな卑怯な、卑劣な手を使おうが、オレは『アントニオ猪木』だ。こんな靴を使ったら後々まで笑われるし、自分の歴史の汚点になる。だからやめるよ」と言たんですよね。そういったやりとりを聞いていても、ギリギリのところまで行っていたことがわかりますね。
■オレは『アントニオ猪木』だ
新日本プロレス 大会パンフレットより
(I編集長) そして6月26日に試合が終わりました。御存じのように「世紀の凡戦」だったということで、世界中のありとあらゆるメディアが書き立てましたね。日本のマスコミ、朝毎読も「世紀の凡戦」だと、「茶番劇」だと書きました。「茶番劇」だと書かなかったのは、プロレスマスコミだけなんですよね。私が最近になって一般紙の記者達にも説明してるんですけど、「当時、我々プロレスマスコミに一言『あれはどうだったんだ?』と聞いてくれたら、こんなルールだった、こういう理由だったんだと教えていたのに」とね。そうすれば彼らは間違った認識で記事を書かずに済んだはずですよ。後にこの闘いの意味がわかって「そうだったのか」と砂を噛むような苦い思いをする必要も無かったでしょう。私は「一言聞いてほしかったな」と、ある記者に言いましたよ。「世紀の凡戦」と書いてしまった一般マスコミのプロレス音痴というか、格闘技音痴というのは、やっぱり恐ろしいですよ。今となってはこの試合は正しく評価されていますからね。
■週刊ファイト1976年7月6日号
週刊ファイトより
(I編集長) 私はよく「プロレス村」とか言いますけど、やっぱり「プロレス村」の中でないと「本当のプロレスの姿」というものは伝わらないですよ。だから、多くのプロレスファンもですね、あの試合は「世紀の凡戦」だとか、猪木が“男妾”のように寝転んで蹴ってばかりだったとか言ってましたけど、とんでもない話です。これはもう「凄まじい死闘」だった訳ですよ。
■「凄まじい死闘」だった
ベースボールマガジン社NEW PROWRESTLING ALBUMより
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「あの試合はガチだ、いやヤオだ」「がんじがらめのルールなど無かった」などいまだに論争が続く猪木vs.アリ戦です。アリ陣営の参謀が「シークのおっさん」のままだったら、どういう試合になったのでしょうか。禁止技の条項が少なく、アリはエキシビションのつもりでリングに上がる。同じような試合展開になったとしたら、第6ラウンドでダウンを奪ったときに、猪木は肘打ちを寸止め出来たでしょうか。緩く曖昧なルールだったら、猪木は「アリを倒して名声を得たい」という欲望を自制できたでしょうか。あの時、肘打ちを入れていたら、おそらく試合は終了したでしょう。猪木のK.O.勝ちかもしれませんし、ルールによっては反則負けとジャッジされるかも知れません。そんな結末になったとしたら、後に藤原喜明が語っている「一つ判断を間違えば死人が出ただろう」という言葉も決して大げさでは無いように思えます。対戦後の猪木とアリの友情も生まれることが無く、アントニオ猪木の人生もまったく違ったものになっていたことでしょう。
猪木はアリにトドメを刺せなかったこと、アリは猪木を全力で殴れなかったこと、これが試合を成立させるために必要な要素だったのだろうと思います。結果的に「世紀の凡戦」と言われようとも、これが最善の結末であり「伝説の試合」が生まれたのです。そういう意味ではフレッド・ブラッシーが重要な役割を果たしていたとも言えます。これが「シークのおっさん」のままだったら、もう「大混乱」で21世紀の格闘技の歴史まで変わってしまっていたことでしょう。
ファンはいつまでもこんな妄想に浸ることが出来る「猪木vs.アリ」戦です。
最後にI編集長のコラムを掲載しておきます。
■週刊ファイト1976年7月13日号
週刊ファイトより
全文は下記のサイトに掲載されていますので、是非ご覧ください。
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毎年上半期が終わりそうな頃に思い出すのはビートルズと猪木アリ。 pic.twitter.com/UCsGVuk0mC
— ガ〆ラ昭和プロレス館 (@YzlGxJlCxKlvuYF) June 24, 2022
[Fightドキュメンタリー劇場 29]猪木vs.アリ 「必ず実現する」と信じ続けた男、それは #井上義啓https://t.co/8geN0qBpV1#週刊ファイト #WeeklyFightMiruhon @CafeFavorites #昭和プロレス #新日本プロレス #njpw #ボクシング #世紀の一戦 #ポルノ大賞 #フレッド・ブラッシー #ザ・シーク #編集長 pic.twitter.com/PBb7ck0Fta
— 週刊ファイトWeekly Fight (@miruhon) June 22, 2022