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闘いのワンダーランド #026
「I編集長の喫茶店トーク」

1976.08.04 宮城県スポーツセンター
アントニオ猪木 vs マジッド・アクラ
坂口征二&ストロング小林 vs タイガー・ジェット・シン&ガマ・シン

「シンの浅草観音様参り」

I編集長・井上義啓

 今晩は猪木vsシンということで、もう何回も繰り返されますからね、猪木vsシンの試合は。その意味とか、シンが猪木についてどう思ったかというような話はもうしません(キッパリ)。ただ、時間の許す限りシンに対する私の思い出と言いますか、そういったものを、エピソードといいますか、そういったものを話させていただきたいと。

 去年もシンについて触れましたけども、シンというのは非常に「狂気」のレスラーでして、演出でヒールを演じなけりゃいけないというようなところが無いんですよ、あの男は。私の顔を見た瞬間に、もう、ネックハンギングですよ。こうね。これ、嘘じゃなくて、誰も見てないところでやるんですよ、だれかカメラマンがおるとかね、そういったことでやりますと、これはいいんですよね。シンはヒールですから。週刊ファイトの井上をやっつけたというところを見せつけるのはいいんですけども、誰もおらんところでね、そういったことをやるんですよ。ですから、ネクタイをこう持ってひきずりまわされたこともありますしね。竹刀で「ガーン」とやられたこともありますし。

 いきなり出会い頭に(通路の)角で会ったんですよね、こっちからシンが来る、こっちから私が来る、控え室の。そして「バチーッ」っと出会ったわけですよ。その瞬間にげんこつが飛んできましたよ、パンチが。そんなもんね、すごかったですよ、これ。私もそこはさすがですね、自分で言うのもなんですが、やっぱり避けたんですね。こういうふうにね、こうゆうふうに避けてやったんです。それで良かったんですけど、あれでまともに入っておったら歯なんか折れてますね。だから、そういった男だったんですよ、シンは。

 で、うちのスタッフがたまりかねて、ある日シンをつかまえてですね、「この人は、うちの編集長なんだから、そんなに殴ったり蹴ったりしないでくれ」と。相当腹に据えかねて、そう言ったんですよ。編集長だとわかった瞬間に、こんどは色んな要求をしてきたんですよね。こうしろ、ああしろ、こういったことでこの写真は何だ、「猪木がオレをやっつけている写真ばっかしじゃないか」とね。「オレが猪木をやっつけとるところがあったはずだ、それを載せろ」とか。なんだかんだ、なんだかんだ、色んなことを言ってくるんですね、シンが。

 それで当時タッグを組んでおったのが、例の上田馬之助、上田の旦那ですわ。ある時に上田の旦那が私のところに来て例の調子でね「編集長ね、シンがフロントページにオレを載せろと言ってんだよね」なんて、あの調子で言うわけですね。それでどうしたんだと、「中のカラーページ、そこにも載せろと、そう編集長に言えと、そう言ってるのよね」とこういった調子ですよ。これはまあね、「載せるよ」と、しかしね、「サーベルを口に咥えてリングに登場してくる写真ばっかし載せられないだろう」って。だから、どうしてもフロントページ、表紙に出たいんだったら、コチラの要求も飲んでくれと。そしたら「それは何なんだ」と言うから、「インド衣装を着て、ターバンを巻いて、例えば浅草の観音様に行ってですね、浅草寺ですね。そいで仲見世を歩いて、鳩に豆をやってですね、手を合わせて拝んで、そういったことをしてくれたらね、いつでも載せるよ」と。まさかシンがね、これは冗談のつもりで言ったんですよ、私は。当時のシンはそんなことを言ったらもう、真っ青になって蹴飛ばして来ましたからね、お前何を言うんだと。ですから、無論冗談のつもりで言ったんですよ。

 そしたら上田が出ていって、しばらくしてシンを連れて帰ってきましたよ。で「シンがOKだと言ってるんですよ」とね。「しめた!」と思ったですね、これ。シンがね、あのシンがターバンを巻いて、浅草の浅草寺であの雷門を通ってですね、仲見世を歩いて観音様にこうやって手を合わせて拝んでる写真なんてのはね、本邦初公開ですよ。だからこれをやったらね、「特ダネ」になるわけですね、これ。だから「しめた」と思った訳ですけど、流石に私もタヌキですから顔には出さない。「そう、だったら上田と一緒に行ってくれ」と。「よしわかった」、「ターバン巻いてくれよ」、「わかりました」とシンが言ってると。そしたらすぐにシンが帰ってきて、オレは「お前は知ってるだろう、タイガー・ジェット・シンなんだ。シン様なんだから、このオレに対してですね、こんなポーズを取れとか、向こうへ行ってくれだの、そんなことを言ったら最後、殺すぞ」と。例によってすぐに「殺すぞ」と言うんだよね。「お前のところのカメラマンをね、やっつける」と。こっちは「しめた」と思ってますからね、「殺そうがね、簀巻きにして隅田川に放り込もうがね、約束を間違ったらもう、好きなようにしてくれ」と。これはもう、上田に言ったんですよ、これ。シンは日本語わかりませんからね。そしたら上田は馬鹿だよ、あれ、上田が見ておったら怒るかもしれないけど。編集長がこんなことを言ってるということをシンに全部英語で喋ったんですよ。それで、シンが「何?」って、「簀巻き」って言葉がわかんなかったんですよね。で、上田も苦労してましたよ。結局こんなことをして、川に、リバーに放り込むんだと言うようなことを言ってたんです。そしたら、「OKだな!」とシンがものすごい顔をして念を押すんですよね、私のところに来て。「えらいことを言ったな、いらんことを言わんでもいい」って言ったんだよね上田に。これはオレと上田の旦那の間だけの話であって、シンにそんなくだらないことを言う必要は無いですよ。それをね、あの人は真面目だから、「こうで、こうで、こうで」って英語で通訳して喋ってしまった。だけども、まあ、シンが約束を守ってくれましたよ。だからいい写真が取れましたよね。

 そしてそれを載せた時に、まあハッキリ言って関係者も、新日本プロレスの関係者もですね、猪木もそうでしょうけどもみんなビックリしたですよ、これハッキリ言って。当時のことですからね。そりゃ読者なんかは「エーッ」て言ってね、驚いて電話をかけてきましたよ。よくこんな(写真を)撮ったなって。これはもうハッキリ言って、そんな怪我の功名でね、行きがかり上、そうなったんですけどもね。だけどもシンは、非常になんというのかね、フロントページというのを大事にしておる。だから、「フロントページに出るのが一流レスラーの証拠なんだ」と、それをいつも言ってました。だからあの男は、口を開くと「フロントページ」なんですよね。

 しかし、そのあと、「だったら今度は大阪港に行ってくれと」、それでこうやって海を眺めてですね、「猪木をやっつけるぞ」ということをやってくれと。そしたら怒ったよね、シンが。ものすごく怒ったんです。「そんなことをするか!」と・・・・(以下、省略)



闘いのワンダーランド #001-#050



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 この後はシンのプロフェッショナル魂の話が続きます。アントニオ猪木vsマジッド・アクラの話はありませんでした。 

 

 

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