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“坂口、沖縄の悲しみの海に沈んだーっ!”(2022/05/13更新)

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■古舘伊知郎、水道橋博士
古舘伊知郎、水道橋博士
FM東京「TOKYO SPEAK EASY」より

 去年の2021年7月9日、FM東京「TOKYO SPEAK EASY」古舘伊知郎さんと水道橋博士の対談が放送されました。いまさらながらオーディで聴いたのですが、興味深いエピソードがあったので一部をピックアップして再録してみます。

■FM東京「TOKYO SPEAK EASY」
FM東京「TOKYO SPEAK EASY」

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水道橋博士)古舘さんから、年表で日付が間違ってる部分があるねって言われたんですよ。それが、古舘さんが小学校5年の時にアントニオ猪木の試合を見たって話なんですけども、「明日の川崎に来い!」って言われた時のね、「人生には予告編がある」という話ですよ。

■少年時代の古舘伊知郎
少年時代の古舘伊知郎
テレビ朝日「あいつ今、何してる」HPより

古舘伊知郎)そうですよ、行きたくても行けなかったんだけれども、月日が流れて22歳の時にアナウンス研修で最後の方に川崎の体育館に行って、ついに猪木さんに会った、その話だよね。

水道橋博士)その話なんです。これを相沢君(相沢直氏:放送作家・コンテンツプロデューサー、水道橋博士の「半世紀LIFE年表」の作成に協力)が調べなおしたんですが、古舘さんが小学校5年の時には、アントニオ猪木は日本にいないんですよ。

■相沢直氏
相沢直氏
アサヤン VOL.20より

古舘伊知郎)これを今日、博士から長文のショートメッセージ(笑)でもらって、何かと思ったら、俺、間違ってたんだね。年表が間違っていると言った俺の方が間違ってたんだね。

水道橋博士)相沢君が猪木さんの年表を調べたところ、古舘さんが小五のころは、猪木さんはアメリカに行って日本にはいない。

古舘伊知郎)いやいや、ほんと恥ずかしい。僕は小学校五年生の時に後楽園ホールのサマーファイトシリーズ第二弾の旧日本プロレスの興行を見に行って、その時に黄色いタイツのアントニオ猪木が「川崎に来い」と言った。そう思って生きてきた。対戦カードは、アントニオ猪木&吉村道明vsアート・マハリック&アントニオ・プグリシーだったと本気で思い込んで、映像記憶もあるから、そう言ってたの。そしたら(調べてもらったら)後楽園ホールに行ったのは中一の時だったんですよ。

■古舘伊知郎年表〜あるいは『古舘と猪木のものがたり』〜
古舘伊知郎年表
ほぼ月刊アサヤンファイトより

水道橋博士)カードから調べると、1967年7月21日の後楽園ホールじゃないか、ということですよ。

古舘伊知郎)そーなんですよ。俺がまだテレ朝の頃に局アナのぶんざいで「過激でどーもすいません」という本を出したんですよ。そこでは中一の時に「おじさんと見に行った」と、ちゃんと書いてるんですよね。それがどこかで記憶がすりかわって小学五年生になってしまってるんですよね。

■古舘伊知郎著「過激でどーもすいません」
「過激でどーもすみません」
Amazonより

古舘伊知郎)それを相沢さんはね、あらゆる状況証拠をぶつけて糾弾するのではなくて、「年齢を経て猪木信者になった古舘さんは、自分のプロレス初観戦はアントニオ猪木でなければならない、自分のプロレスバージンはアントニオ猪木であって欲しい、いや猪木でなくてはならないと思うようになった。そして小学校5年生に見たプロレス初観戦の記憶を二年後に猪木を見た記憶で塗り替えてしまったのではないか。本当の猪木ファンであれば、これくらいのねつ造はやってしかるべきだと思っています」と言ってくれているんですよ。

水道橋博士)これは古舘さんは謝る必要は無くて、なぜならば古舘さんは「記憶がウソをつく!」っていう本を書いているからですよ。だから、前もって自白しているわけですよ。

■「記憶がウソをつく!」
「記憶がウソをつく」
Amazonより

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 この古舘アナのプロレス初観戦、「川崎に来い」のエピソード、実は当ホームページでも検証をやっていました。個人的には「俺だって調べて知ってましたよ」とニヤニヤしながら聴きました。しかし「記憶は嘘をつく」とはまさにその通りですね。それは悪いことでは無いのだと、あらためて思わせてくれる対談です。そんな記憶の話をしている古舘伊知郎さんと水道橋博士、この放送のトークの中にももう一つ作り上げれた記憶ありました。無粋な突っ込みではありますが、せっかく気がついたので。

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古舘伊知郎)1996年、谷中の場末のスナックの暗がりで謹慎中の水道橋博士と会ったときですよ。なんでか水道橋博士と飲んでたんですね。その時に水道橋博士が「古舘さん、古舘さんのいろんな実況の中で俺が一番好きなのは、沖縄県立奥武山体育館で坂口が負けたときの“坂口、沖縄の悲しみの海に沈んだー”のフレーズですよ」と言ったんです。そんなことは忘れてたから、その時にもう一回、自分の映像記憶の中で、坂口征二が沖合に浮かんできたんだよね。

水道橋博士)後日、古舘さんは第四学区(1999-2000年:フジテレビ)で石橋貴明さんにこの話をするんですよね。それをまた正確に話していたんですよ。よく覚えてるなーって、僕は感心したんですよ。

■第4学区
第4学区

古舘伊知郎)俺は脳内に映像記憶を刻んでますから。

水道橋博士)僕は日記を付けてるし、いろんなモノに記録してますから、覚えてるわけですよ。

古舘伊知郎)すごいねー。やっぱりルポライターだねー。

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 ここで話されている沖縄・奥武山体育館での試合は、テレビ中継があった1982年5月12日の大会だと思われます。対戦カードは、坂口征二vsアブドーラ・ザ・ブッチャーのシングルマッチ。この試合の試合終了のゴングが鳴らされた時の古舘アナの実況です。


「リング上でうずくまっておりました坂口がやっと今中腰の体勢、血なまぐさい流血戦の様相を見せておりましたこの坂口vs.ブッチャーの沖縄決戦。太陽の島で血の洗礼を両者が受けてしまいました、沖縄の海、ブルーのキャンバスに沈むのはどちらか?注目の一戦でありましたが、結局これはブッチャーの反則によりまして、5分48秒、5分48秒、坂口が流血の痛い反則勝ちを拾ったわけであります」



■坂口vsブッチャー(沖縄・奥武山体育館)
坂口vsブッチャー
TV放送画面より


 ウーン、放送を見てみると坂口は負けていません。手痛い流血の結末となってしまいましたが、裁定は「坂口の反則勝ち」です。ここにも水道橋博士の「記憶が嘘をついて」いて、古舘伊知郎さんの映像記憶が上書きされる現象が起きていたようです。なぜ水道橋博士の記憶が「坂口征二が沖縄の悲しみの海に沈んだ」となっているのか考えてみると、確かに80年代の坂口は「あの強い坂口征二」が負けることで、「あとはこの最強外人を倒すには猪木が出るしか無い」という状況を演出する役割に徹していました。だから大一番で坂口が負ける印象が強かったのです。

 坂口vsブッチャーの次の試合、メインイベント「藤波辰巳&谷津嘉章vsハルク・ホーガン&バディ・ローズ」の試合結果が上書きされたのだと推測されます。この試合は、新進気鋭の谷津嘉章がハルク・ホーガンの強烈なアックス・ボンバーを食らってフォールされています。この時の古舘アナの実況は、


「ホーガンの彫刻の美を連想させるような素晴らしいシェイプアップされた肉体、上半身が隆起している。ロープに飛んだ、アックスボンバー、アックスボンバー!恐怖のまさかり殺法!恐怖のまさかり殺法が出た。谷津が沖縄の海に底深く、谷津が沖縄の海に沈んでしまったーっ!。ブルーのキャンバスに沈んだ谷津。恐怖のまさかり殺法、ハルク・ホーガン自信満々の表情。恐怖のまさかり殺法、恐怖の斧、あのアックスボンバーによりまして、谷津嘉章を仕留めました」



■ホーガンのアックスボンバーが谷津決まった
坂口vsブッチャー
TV放送画面より


 ここに「沖縄の海に底深く、谷津が沖縄の海に沈んでしまったーっ!」と言う名フレーズが出ています。これを水道橋博士がその日の試合で記憶に残ったセミファイナル、坂口vs.ブッチャー戦と古舘実況の印象的だったフレーズをミックスして、「坂口、沖縄の悲しみの海に沈んだー」という実況だったと言う記憶を作り出していたんですね。まさにここでも「記憶は嘘をつく」現象が起きています。

 それでもいいんです。本当のプロレスファンなら、昭和プロレスをよりドラマチックな記憶にするために、これぐらいのねつ造はやってしかるべきなのです。もちろん私の記憶の中にも、様々なねつ造記憶があるはずです。私はアントニオ猪木がクリス・マルコフに卍固めをかけてワールドリーグ戦を優勝した場面のテレビ観戦で感動した脳内の映像記憶が鮮明にあるのですが、それが本当なのか、のちに作り上げられたモノなのか自分の記憶が定かでは無いことを以前から薄々感じていました。

 しかし、今回の古舘伊知郎さんと水道橋博士の対談を聞いてスッキリしました。プロレスファンならそれぐらいのねつ造はやってしかるべきなのです!! ここに再録したのはほんの一部です。この日の「TOKYO SPEAK EASY」は、昭和プロレスファンには超おすすめの回ですよ。

■こちらのリンクからどうぞ
古舘伊知郎、水道橋博士
FM東京「TOKYO SPEAK EASY」より

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